農業施設27巻3号
1996.12,109〜110
論説:

畜産施設研究への期待

Expection to Research on Animal Husbandry Facilities

我妻幸雄
Yukio AZUMA

 わが国の乳用牛・肉用牛の飼養規模は、国民所得の急激な上昇によって、畜産物需要の増加に支えられ急速に拡大してきた。1995年の統計で乳用牛が195万頭、肉用牛296万頭、一戸当たり飼養頭数も急速に増加し、それぞれ44.0頭(北海道74.2頭)、17.5頭となった。牛の飼養規模の拡大、能力の向上にともない、畜舎(牛舎)施設、装置・機械の導入が図られ、多頭管理が可能になった。現在における年間飼養管理労働時間は、搾乳牛を例にとると、全国平均で116.3時間/頭(北海道97.1時間/頭)と30年間で約1/4にまで減少し、省力化が進んでいることを示している。
 しかし、農家戸数の減少傾向が続くなかで、畜産物の輸入自由化に対応できる国際競争力の強い経営体質が求められる一方で、農業従事者の高齢化・婦女子化、担い手不足等労働力の変化、畜舎及び付属施設・設備の過大な投資と、高性能・高能率の機械投資の増加による農家負担の増加、飼養管理作業の省力化、労働強度の軽減の必要性拡大、さらに牛の能力向上あるいは多頭化によって悪化した畜舎内外環境の改善など、畜舎施設・設備・機械をめぐる諸問題が提起されている。

研究の経過
 牛の飼養管理技術に関する研究は、基礎的には家畜(牛)の栄養、生理、生態、繁殖、飼料などの分野から実際的な牛舎構造・機能、牛舎環境、飼養管理作業法、装置・機械さらに家畜糞尿処理にいたる広範な領域を包含している。ここでは、牛舎及び付属施設・設備とこれに関わる牛の管理作業関係にしぼって考えてみたい。
 畜舎施設に関連するわが国における試験研究は、比較的新しく、1955年後半からの高度経済成長により、急速な伸びを示した畜産物の需要に対応して、乳・肉用牛の多頭が進んだ。これにともない、当初は収容施設も牛房の継ぎたしや、牛舎の部分改造などで対応していたが、多くの問題が提起された。そのため、1962年以降、農林水産技術合議が中心となって、畜舎施設などに関する試験研究が開始された。1963年には「近代畜舎の構造に関する研究」が開始され、飼養規模拡大、近代化の方向に沿った畜舎構造の問題点と、改善策が提示された。さらに、畜舎建築に関する指導指針としての畜舎標準設計を作成することの必要性から、標準畜舎の設計に関する研究が行われた。その後広く大学及び民間団体の建築や家畜の専門家や農林水産関係機閑研究者の参加のもとに、研究協議会を組織して、畜舎施設などに関しての研究企画がなされ、これらが契機となり研究が推進された。
 一方、当時は多頭化の進展が急速であったため、一般に欧米の様式をそのまま導入した例も多く、あるいは、畜舎設計の原型を欧米に求めて、わが図の立地条件、社会経済的条件に適合させる努力を重ねながら試行的に進められたきらいもあった。その結果、わが国においては必ずしも畜舎としての機能が十分に発揮されなかった。その後も畜舎経営の規模拡大が進展する情勢を背景に、生ずる諸問題及びわが国の気候風土、経営形態などに適応させるよう多くの関連研究・開発が続けられてきたものの、畜舎内外環境の不備に起因する問題、畜舎施設・設備・機械投資の増大による農家経営の圧迫など多くの問題が残された。
 その後、1981年には、5年間にわたり農林水産技術会議が行った「乳肉複合および繁殖肥育一貫経営確立に関する研究」がある。これは、農林水産省畜産試験場が主査場所とした10国立試験研究機関を中心に、大学などの委託機関を加えた18場所、53研究室が参加して、牛舎の配置計画、牛舎及び付属施設の設計、家畜管理作業及び牛舎施設機器の利用、飼育環境とその改善対策など、牛の飼養施設にかかわる広範な領域にわたる研究が実施された。さらに、既存の知識に本研究の成果を組み込み、建築に関する諸法規に則りながら、生産性、作業性、安全性を満足させる経済的な牛舎を設計する上での、選択の基礎を与えることを目標に、「乳用牛の中間地向フリーストール牛舎」を含む5類型の「乳用午・肉用牛の飼養施設設計指針」が作成された。

畜舎施設をめぐる問題
 以上に述べたように、わが国における乳・肉用牛の飼養施設の導入及び飼養管理作業の省力化については、かなりの成果を上げてきたと考えられる。しかし、市場開放下において国際競争に打ち勝つには、高品質畜産物の低コスト化がますます重要となる。これにたいしては、経営規模の拡大によるコスト低減、生産技術の改善や畜舎施設・機械等への適正投資によるコスト低減を図る必要がある。特に畜舎施設に関わる研究課題としては、畜舎構造の簡素化・低コスト化、畜舎環境・機能の適正化、施設・設備の保守管理技術、飼養施設系における排泄物管理技術の確立、低コスト乳・肉用牛飼養管理技術の体系化等が考えられ、早急に研究を進めなければならない。
 牛舎建築に当たっては、飼養管理の作業性を高め、飼養環境を良くする構造に設計・施工することは当然であるが、必要以上に畜舎環境保全などの機能を高め、外観を重視すぎると投資額が大きくなる。生産施設である牛舎に過大な投資をすると経営が成り立たなくなるので、これまでも常にコスト低減は緊急課題となっており、古電柱や廃材の利活用、自家労力提供などが実施されてきた。1975年後半頃から、試験研究機関や関係団体等で、実用面を重視した研究ならびに実証実験が数多く実施されてきた。
 すなわち、中央畜舎会は、1983年から3年間にわたって、過剰投資を抑制し生産費の低減を図るための一方策として、低コストで、かつ利用性・耐久性にすぐれた畜舎建築に向けて、豊富な間伐材等の有効活用をねらいとした、低コスト肉用牛舎について検討した。その結果、小径木利用開放型肥育牛舎、開放型簡易繁殖牛舎などを大分県ほか5県に、60頭及び100頭収容肥育牛舎を含め、7牛舎(うち岩手県ほか2県の3牛舎は多雪区域用)を試行建築、施工試験を行うと共に、肉用牛飼養管理の実証試験まで実施した。さらに、これらの成果をもとに施工マニュアル・設計図集を作成した。また、農用地開発公団では1984年から3年間にわたり「低コスト工法実用促進事業」を、北海道でもカラマツ材を有効利用したPT型ハウス(牛舎)の開発を試みるなど、畜舎への投資の効率化と過剰投資の防止を徹底し、経営の安定化に向けて努力がなされてきた。
 以上にあげた例は、いずれも専門分野の異なる大学、国公立試験研究機関、民間研究機関、関係団体等多数の研究者、技術者によるプロジェクト・チームを中心に推進され、成果を上げてきたものである。畜舎施設そのものについての実験は難しく、ハードの成果に結実する研究であるので、一機関の研究者だけでは困難と思われる。筆者としては、畜産分野以外の複数の専門分野にわたる課題の研究を行う場合は、一専門分野の知識や経験だけでは不十分で、多くの異なった境界領域の学問や専門知識が必要である。したがって、この種研究問題を効率的に解決するためには、大学及び国公立研究機関、民間の関係研究機関等との連携・協力が必要であると考えている。
 1993年9月、農林水産省は、農政審議会報告「稲作以外の主要経営部門についての経営の展望と政策展開の基本方向」を取りまとめ、これに沿い新農政の本格的な展開を図るための施策を推進している。関連する酪農及び肉用牛経営の展望(抜粋)では、畜舎等の低コスト化の推進をはじめ経営規模の拡大に伴う投資が過大とならないよう留意しつつ飼養頭数の拡大を進める等とした(1)合理的な経営管理の推進と経営規模の拡大、(2)地域の実情に応じた経営の複合化、高度化、大規模経営を中心にフリーストール・ミルキングパーラー方式等の新しい飼養管理方式などの(3)機械化・省力化技術の開発普及、低コストの家畜糞尿処理技術の開発等(4)環境問題への適切な対応等々が必要であるとして、今後の基本目標を経営規模、生産性、労働力時間等について定めている。この拙稿が、これらの目標達成に多少でも参考になれば幸いである。




農業施設学会