Reconsideration of Publications by the Society and the Copyright秋永孝義
琉球大学農学部・鹿児島大学大学院連合農学研究科・農業施設学会参与
Faculty of Agriculture,University of the Ryukyus
プロシーデイングとその評価
農業施設学会は1995年に台湾大学で施設園芸に関するシンポジュームを共催したり、1997年はハワイ大学で持続的農業及び食料システムに関するワークショップを共催するなど、国際交流に協力的な学会のひとつであろう。このようなシンポジュームやワークショップには俗にプロシーディング(Proceedings)と呼ばれる論文集が発行されることが一般的である。たかがプロシーディングであるが、多くの参加者はそれまでの研究成果を凝縮して仕上げるのである。とりわけ、ふだん日本語しか読み書きしていない私には、プロシーディングを英文で仕上げるのは日本語の論文の数倍の労力を必要とする。会員諸氏の中には、和文英訳はパソコンソフトで対応できるという人もあるかもしれない。しかし、これまでに「農業施設」に投稿された論文にはこのような機械的な訳文は無かったと思う。苦労しても大学で業績評価をする際のプロシーディングの評点はきわめて低い。その理由は、先に述べた自動翻訳に起因するものではなく、プロシーディングは講演予稿集的性格が強く、会議終了後、他の学術雑誌に再投稿できるという安易な暗黙の了解が一人歩きしているのが、主因ではないかと私は考えている。
かつて、博士課程3年の学生に、マレーシアで開かれた熱帯果実のシンポジュームに無理矢理投稿させていたことを思い出した。このシンポジュームの2巻477ページにわたるプロシーディングの見開きにはマレーシア農業技術研究所の著作権と「何人たりとも再掲載、電子コピー、電子出版等を著作権者に無断で行わないように」という注意書きがある。つまり、安易な再投稿を禁じて著作権を明確にしているのである。外国の例でも、時には著作権を宣言してあっても、無審査であると記載されていたり、はっきり再投稿不可と記載きれていないため、取り扱いに苦慮することもある。ところが、我が国の学会が組織した国際研究集会のプロシーディングの見開きや巻末に著作権について言及している例をあまり見かけない。逆に著作権は設定してあるが、再投稿はほとんど自由といった学会さえある。このため先に述べたように、プロシーディングは近年盛んに論議されている大学教官の業績評価の際には、全く評価されないことが多い。E-mail と著作権
昨年、私のところへ農業施設学会経由で米国の研究者(Mail Adressしかわからない)から、本誌へ掲載された私と大学院生の共同著作の論文のコピーを E-mail で欲しいとのリクエストがあった。これまで、郵便でしか論文の請求をもらったことがない私は、E-mail での論文の請求なんて、全く考えてもみないことで、いささか狼狽えてしまった。別刷りならすぐに送ったのであるが、メールでと言うことが、気がかりであった。早速、当学会事務局へ問い合わせた。結論は「著者の判断に任す」との判断だったと記憶している。E-mail で送付する場合、図表も電子化してあれば全く同一の論文が請求者の手元に届くわけであり、場合によっては、そのまま他の出版物に転載できることが、私がすぐに送付しなかった理由である。後日、別刷りを郵送したいので住所・氏名を連絡されたいと E-mail で返信した。幸か不幸かそれ以来、くだんの方からは再度の請求はない。私が修士課程のテキストに使っているカリフォルニア大学出版局発行の教科書には、著作権や内容の電子化複写に関する注意書きならびに本の中に書いてある化学薬品の施用、効果及び廃棄についての注意書きまである。ちなみに、インターネットに公開されているホームページにも、シンガポールチャンギ空港のようにしっかり、著作権を明記してあるものが増えてきている。学会出版物と著作権
わが農業施設学会を初めとした学会、大学、あるいは大学が発行する学術図書はいかがであろうか。農業施設学誌「農業施設」の見開きには和英両文で複写に関する注意書きが掲載されているし、投稿規定には著作権は、農業施設学会に帰属すると明記されている。この規定と先の E-mail による別刷りの請求に対する学会の判断のずれが、学会の著作権に関する曖昧さを表しているのではなかろうか。この曖昧さは農業施設学会に限ったことではない。琉球大学でも公開講座のためにテキストを編纂している。私もかって1日分を書いたが、文中でどうしてもカリフォルニア大学の教科書中の表を和訳して転載したかったので、著者に問い合わせたところ事情を理解して表の著作権を明示した上で「和訳の転載」を許可された。ここまでは少し手続きが面倒なだけで、当たり前のことである。実際にはこの手続きさえしてないのが大半では無かろうか。しかし、出版後、別の問題が起きてしまった。沖縄にある JICA の出先機関が公開講座のテキストを著者の承諾無しで英訳してしまったのである。校正を依頼されて初めて英訳出版が企画されていたことがわかった。だれが英訳を許可したのか曖昧なため、私は仕方なくカリフォルニア大学の知人に再度尋ねたところ「和訳転載は許可したが原文転載は許可していない」という返事が来た。そこで、JICA の担当者にカリフォルニア大学出版局に転載の許可をとるように助言をしたところ、「手続きが面倒なので先生のページは割愛します」との返事。私のページがその後どうなったかは未だに確認していないが、我が国の外務省の出先機関の著作権の常識はこの程度なのであろうか。
かく言う私も最近まで「著作権なんて俺には無縁よ」と思っていた。1991年9月にカリフォルニア大学の知人が主宰したワークショップヘ参加した際に、プロシーディングを出版社から刊行するので、そのつもりでと言われた。プロシーディングにしては、やたら執筆要綱が詳しくて大変だと思ったくらいだった。フルペーパー送付後、出版元の米国CRC社から送られてきた著作権に関係した書類を読んで驚いた。内容はまさしく著作権移譲の契約書で、そのままサインすると原著者の私もいかなる再利用も出来ないとある。ただし、著者が将来の自己の出版利用についての権利を留保することが出来るとの条項があり、ひと安心。当然権利を留保した。この論文のために描いた図表一枚ずつに共著者全員のサインをもらった承諾書を添付して書類は10枚を越えていた。当時は、こんなことをしてまでもと考えたものだったが、権利の国、米国らしい契約書だった。その後、これほど整然とした著作権の移譲の契約書を読んだことがない。著作権とは
いったい著作権とはなんなのか、短時間で情報を得ることができれば良いのに、私もこれまで大学で数回開催された説明会には不勉強で参加していない。そこで、パソコンのホームページで簡単に情報が得られるのではと検索したら、社団法人 著作権協会の「はじめての著作権講座」(http://www.cric.or.jp/)が見つかった。かなり分かりやすく解説してあり、先ほどの翻訳物などの二次的著作物の利用については、原著者の権利も働くため、原作者の許諾が必要になる例や、教育機関における著作物の複製についてなどが解説してある。これらを読むと、わが農業施設学会の著作権に関する認識が、学会誌の電子情報化が、もうそこまで来ているのにもかかわらず、とりあえず詳細は別途検討するとして決めたことのように思えてしかたがない。今後は、国際化と予算のスリム化に対応して、英文誌をインターネット上で発表することなども考えられようが、転ばぬ先に著作権を十分に検討しておいて欲しい。読者の参考までにカルフォルニア大学出版局の著作権に関する注意を書いておく。
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日本の学会でいくつの学会が著作権について真剣に議論しているのであろうか。
(鹿児島大学大学院連合農学研究料 ニュースレターNo.171997掲載「プロシーディングと著作権」を加筆修正)