酪農学園大学酪農学部酪農学科・教授
このたび、会員の皆様のご推挙により、2007〜2008年度の農業施設学会の会長を仰せつかることになりました。どうぞよろしくお願いいたします。私が農業施設学会に入会したのは、大学を卒業した1973年(昭和48年)で、恩師である堂腰先生に勧められてのことでした。それ以来34年間ほど、自分にとっては中心的な学会として参加させていただいてきました。「農業施設学会に育てられてきた」と言うのが自分の実感です。
つくば市の農林水産省農業工学研究所に勤務していた1986〜1991年には、編集幹事をはじめとして、いろいろな委員会にも参加させていただきました。学会誌の表紙が現在のものに変わったのも、丁度第20巻を迎えたこの頃でした。会誌の体裁や電算写植化、投稿規定・論文審査の手順なども議論したことを覚えています。また、学会運営の仕方の大改革を行ったのもこの時期で、前川孝昭元会長・岩元睦夫氏・奈良誠氏・山口智治氏らと共に、ずいぶん過激な議論をしていたことを思い出します。さて、農業施設学会の運営につきましては、これから役員の皆様をはじめ会員の皆様からご意見をいただき、また議論をしながら進めてゆきたいと考えておりますが、これまでの学会活動を通じて、私が感じたこと、考えていることをここで述べさせていただき、今後の学会活動に関する議論の材料としていただければと思います。
1.学会の役割
まず、一般的な学会の役割について、私見を述べさせていただきます。
学会は「議論の場」であると考えます。私自身も年に1度の大会や現地見学会などで、ずいぶん議論をさせてもらいました。香川大の蓑輪さんや筑波大の山口さんとは、いろいろな話で盛り上がり、とてもよい刺激を受けました。たまたま自分に発表のネタがなく、他の先生方の発表を聞くだけのために大会に参加したときなどは、おおいに刺激を受け、「今度はこんな発表をしてやろう」と意気込んだものでした。良い仲間との議論が、学会の最も大切な要素だと思います。
また、研究発表や論文投稿を通して、「哲学」を創ることが学会の、そして研究者の役割だと思っています。たくさんの研究発表や論文投稿をすることももちろん大切ですが、その過程を通して、多くの仲間との議論を通して、「細切れの技術」ではなく、「哲学」を創ってこなくては、農家の方達と議論ができません。なぜなら、現在は、農家の方達も自分の「哲学」を持って経営をやっているからです。このことについては、十数年前、拙文「私的大発見」(随想,Vo1.26(3),1995,137-137)に書かせてもらいました。ご覧いただければ幸いです。
さらに、学会には「若い人の力」が必要です。自分も若いつもりではいるのですが、残念ながら、だんだんと体力・気力が追いつかなくなってきました。新しい発想は、若い人との議論あるいは若い人同士の議論の中から生まれてくるものだと思います。そのような機会(場)を作ることが、学会の大切な役割だと思います。2.農業施設学会の役割
ここまでは一般の学会の話でしたが、私達の学会である農業施設学会の役割は何でしょうか?
私は「農業施設学会は、循環型農業を支える各種施設に関する研究・教育の場」であると考えています。しかし、このような表現は、どこの学会でも掲げそうなテーマです。農業施設学会の独自な役割は、その研究対象と研究姿勢にあると思います。
農業施設学会に特徴的な対象施設として、米麦・野菜の乾燥・調整・貯蔵施設や集出荷施設、畜舎・ふん尿処理などの畜産施設そして農業に係わるエネルギー関連施設などがあげられます。その他、園芸施設なども他の学会には見られない特徴的なものを対象としてきました。
そしてなんと言っても農業施設学会の特徴は、「現場に根ざした研究・教育」という姿勢にあると考えます。30数年前、恩師の堂腰先生から、学会設立の趣旨を何度となく聞かされました。当時は手薄だった前述の研究対象もさることながら、現場に使える研究をするということが、大きな動機だったと記憶しています。「現場から学び、研究成果を現場に返す」という姿勢こそが本学会の最も大切なことだと思います。
そのためには、細分化した技術ではなく、総合化の必要があるでしょう。最新技術の開発は生産効率の改善に不可欠なものではありますが、技術が飽和しつつある現在においては、往々にしてひとつの最新技術がシステム全体を壊してしまうこともあります。循環型農業を実現しようとするときには、よくぶつかる問題です。新しい・古いに拘わらず、個別技術の適正なる選択・組み合わせが求められます。
また、農業の大切さを本当に理解してもらうためには、生産という側面だけではなく、環境への影響や生産者の生活の問題についても考慮する必要があります。家畜生産についていえば、上記のほかに、最近は「家畜福祉」ということも注目され、家畜に不必要な苦痛や不快を与える生産システムは、いくら効率が良くても認められなくなってきています。これらの問題は、いずれも経済効率や生産効率のみの追求がもたらしたツケだと考えられます。これらに対しては、目を逸らさずに対応する必要があります。
さらに、循環型農業を成立させるためには、伊藤元会長・石橋前会長がおっしゃっているように、「地域性の重視」が必要となります。なぜなら、循環はその土地ごとの気象条件・土壌条件・社会的条件などの特性(風土)を生かしてはじめて成り立つものだからです。これは簡単なことではありませんが、農業ならではの醍醐味とも言えそうです。
もう一つ付け加えるならば、「農業と工業の相違の認識」があげられます。農業施設学は農業工学の一分野なわけですが、農業工学は「工学的な手法により農業の問題にアプローチする学問」ですので、農業施設学もまた同様なスタンスを持った学問と言えます。しかし、アブローチの仕方には自ずと限界があると考えます。特に、循環型農業を目指そうとするときには、「循環が成り立つ範囲において工学的技術の応用を図る」という姿勢が大切になると思います。単純な「農業の工業化」は、食の安全・安心や持続的生産を阻害する恐れがあると考えます。
いずれにしても、循環型農業を目指した農業施設は、単独の分野や単独の組織で実現できるものではありません。伊藤元会長・石橋前会長がおっしゃる「産官学の連携」の必要性も、ここからくるものと思います。3.他学会との連携
これも長年にわたる課題であると思います。最近は、農業工学関連学会の合同大会が頻繁に開催され、関連する学会同士の風通しはとても良くなってきていると思います。同じようなメンバーが、あまり大きいとは言えない別々な学会に何度も集まるよりは、一同に会して議論をした方が活性化するのは間違いのないことと思います。
しかし、その前提として、農業施設学会の役割の明確化が求められることは、言うまでもありません。本学会の設立当時からの趣旨である前述した役割を原点に据えながら、積極的な連携を図りたいと考えています。以上、私見を述べさせていただきましたが、この内容につきましても、是非、ご意見をお聞かせ願えればと思っております。
私自身はもとより微力ではありますが、たくさんのとても優秀な役員の方々にご協力いただきながら、進めさせていただきたいと思っておりますので、よろしくお願いいたします。