今回受賞対象となった一連の研究を始めた当初は、まさに暗中模索状態で、「とにかく牛が歩くときに床が受ける荷重なり圧力なりを測ってみよう」というような姿勢だった。当時、文献を検索してもそのようなデータはほとんど発表されていなかった。牛はどのように歩くか
最初に行った実験は、歩行動作を対象とし、歩様・歩行荷重・最大蹄圧分布を測定するものだった。この実験で明らかになった事項は次のようなことである。(1)歩行動作中の約7割の時間、牛は3肢で体を支え、3割は2肢で体を支えている。(2)1肢が接地してから離地するまでに床に与える力のうち、鉛直分力の体重に対する比は、前肢で最大60%、平均40%、後肢で最大50%、平均33%程度であり、重心に近い前肢の方が大きい。(3)前後方向の水平分力については、前・後肢間の差は小さく、体重に対する比は最大10%、平均5%程度であり、制動力・駆動力は前後肢が同等に担っている。(4)左右方向の水平分力は前後肢ともに常に体の外側に向かって作用し、前肢では前後方向の水平分力と同等の大きさである。このことから、牛が歩行動作を行う床に関しては、牛の進行方向ばかりではなく、左右方向へのすべり防止に関する考慮が必要である。(5)アスファルト舗装道路上での歩行動作時の最大蹄圧は,蹄負面において10sf/p2を越える。大きな圧力は蹄負面に集中し、蹄底にはほとんど圧力が発生しない。固い床と柔らかい床で歩行動作はどう変わるか
次に、床条件が牛の歩行動作にどのような影響をおよぼすかを知るために、コンクリ―ト床と、その上にモミガラを7〜9cm敷いた床との、2つの異なる条件における歩様の観察、および歩行荷重の測定を行った。その結果は以下のようなものである。(1)歩様および歩行荷重の基本的な波形は2つの床条件でほぼ同様である。(2)モミガラを敷くことによって、コンクリ―ト床の際に発生する蹄接地時の衝撃的な荷重がなくなり、さらに、左右方向の水平分力がコンクリ―ト床に比べ小さくなる。(3)歩行動作中の鉛直方向の重心変位は、床条件間に差異はなく振幅が1〜3cmである。左右方向に関しては、コンクリ―ト床で11〜14cmであるのに対し、モミガラを敷いた場合には6〜10cmに減少する。モミガラを敷いた床条件の方が左右への偏心の少ない歩き方をする。牛はどのように横臥・起立するか
次いで、分析の対象とする動作を横臥および起立とした。以下のような結果が得られた。(1)横臥・起立両動作に共通して、前肢に関しては前膝による接地時間が長く,1前膝で供試牛の体重の40%程度の鉛直荷重を支えている。(2)横臥動作時に前膝は後方に最もすべりやすいため、通常設けられるストールの前部から後部へ向かう一様な勾配は、横臥動作時の前膝のすべりを助長する。(3)後肢の左右方向の水平分力は両動作に共通して、おもに体の外側に向かって作用する。このことから、ストールの後半部分に関しては、中央から左右端に向かうすべりを防ぐ考慮が必要である。(4)後肢に関しては蹄尖付近の小面積による接地相があり、接地圧は60〜100kgf/cm2になるものと推定される。大きな圧力によって床面が変形しない場合には、蹄と床の接触状態が不安定になるため、ストール床面は大圧力を受けた際に変形する軟らかい性質を持つべきである。謝 辞
本研究を進めるにあたり、多くの方々からご協力、ご指導、ご助言をいただいた。共同研究者である筒井義冨氏、宍戸弘明氏、山岸規昭氏、古川良平氏、長谷川三喜氏には専門分野や所属機関が異なるにも関わらず研究の実施に際して多大なるご協力をいただいた。山下進氏、深山一弥氏、干場信司氏は研究室長として、自由な研究の場と多くのご教示を与えてくださった。以上の方々、そして私の小さな仕事を賞に推してくださった蓑輪雅好氏に心からお礼を申し上げたい。