農業施設29巻1号
1998.6,34
セミナー講演要旨:
家畜・食肉汚染の実態と対策
腸管出血性大腸菌O157
農林水産省家畜衛生試験場 中澤宗生
戦後、多くの細菌性消化器伝染病は減少の一途をたどったが、食中毒の大部分は細菌性であるにもかかわらず、患者数はここ40年間ほとんど変化がみられない。それは食中毒菌が生態学的に伝染病菌とは異なる性質を有することを意味する。すなわち、食中毒菌の大部分はヒトの生活環境の至る所に(ubiquitous)生息し、しかも身近に保菌動物が存在することと関連がある。例えば、腸管出血性大腸菌(EHEC)O157を保菌する反芻動物、サルモネラを保菌する鶏、牛、豚、愛玩動物、野鳥、ネズミ、カンピロバクターを保菌する鶏、牛、豚などである。家畜の保菌防止および飼育環境の清浄化がヒトの食中毒対策の原点であると言われる所以である。
これまでの主な報告をみると,牛のEHEC O157:H7の保菌率は米国0.39〜16.7%、カナダ0.88〜3.0%、英国0.4〜9.5%、日本0.12〜14.3%であり、糞便1g中の薗数は最大105個である。検査方法や農場によって保菌率は大きく異なるが、子牛が成牛より高いこと、保菌に季節性があること、排菌が間欠的であることなどが特徴としてあげられる。
一方、牛から直接伝播によるヒトのEHEC感染例が散見されることから、生産段階における本菌感染防止の重要管理点として、(1)糞便による身体の汚染に注意し、作業着・作業靴は適宜に替え、手洗い・消毒を励行する、(2)幼児や高齢者が家畜と濃厚な接触を持たないよう心がける、(3)畜舎の近くに位置する井戸水を飲用にする場合は十分煮沸するか塩素消毒する、(4)酪農家においては自家産ミルクを家庭で飲用する場合は十分加熱してから飲む、(5)畜舎内およびその近辺での喫食を避ける、(6)飼い犬や猫が畜舎に自由に出入りしないようにし、生牛乳を与えない、(7)畜舎内のハエから菌が分離されていることから、ハエの駆除を行う、(8)家庭菜園へ施す堆肥は完熟したものを用いる、(9)水源地付近に糞を野積みしない、などが挙げられる。
畜産技術者はこれらの諸点を生産者に啓蒙し、生産者自身が本菌から身を守り、同時に、と畜場出荷に際して保菌検査を実施するとともに、可能な限り清浄な生体を提供するように指導することが重要である。
農業施設学会