農業施設29巻1号
1998.6,35
セミナー講演要旨:

家畜・食肉汚染の実態と対策
牛海綿状脳症 Bovine Spongiform Encephalopathy

農林水産省家畜衛生試験場 木村久美子

 牛の海綿状脳症(BSE)、羊のスクレイピー、ヒトのクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、ゲルストマン・ストロイスラー症候群(GSS)はすべてプリオン病と呼ばれる致死性、伝達性の中枢神経系変性疾患である。本病の病原体としてプリオンが提唱されている。プリオンの本体は明らかにされていないが、その主要な構成成分は宿主の持つ正常プリオン蛋白質(PrPc)が転写後の修飾を受けて蛋白質分解酵素抵抗性になった異常プリオン蛋白質(PrPSc)と考えられている。プリオン病はPrPScが脳内に蓄積することにより発症する。プリオン病の確定診断は主に病理学的検査によって行われる。プリオン病では病理組織学的に脳に海綿状の変性が認められる。免疫組織化学およびウエスタンブロット法によってPrPScの検出法は実験動物への接種試験であるが、プリオン病は非常に長い潜伏期を持つため迅速診断に適さない。
 BSEは1985年に発生が確認され、1993年に発生のピークを迎えたが、その後減少してきた。疫学的調査からBSEは羊のスタレイピーに汚染された飼料を介して伝達されたと考えられている。1970年代後半から1980年代にかけて、牛の飼料に添加されていた肉骨粉の処理方法が変化したために,原材料中のスタレイピー由来のPrPScが不活化されずに牛の飼料中に混入したと推測されている。
 一方、1994年頃から英国では新変異型CJD(nvCJD)と呼ばれる従来のCJDとは異なる疾患が出現した。英国政府がnvCJDがBSEに起因すると発表したことから世界中で社会的混乱が生じた。その後も両者の関連性を示唆するいくつかの報告が発表されているが、直接的な証拠は得られておらず、今後の研究の進展が期待される。
 日本ではスタレイピーの発生は散発的に認められてきたが、BSEの発生報告はない。また、反芻獣由来薬品原材料の輸入も禁止されている。従ってBSEに関しては世界でも安全な国のひとつと考えられている。


農業施設学会