農業施設30巻1号
1999.6,89
セミナー講演要旨:

水界の環境ホルモン(内分泌攪乱化学物質)

大槻 晃

 環境水中の農薬を含む有機汚染物質の濃度は、農薬の散布直後の河川水や下水処理施設からの処理排水を除けば、PPbレベルを超えることは希である。PPtレベルの有機汚染物質の魚介類への蓄積が、果たして、有害な影響を与えるのであろうか。常に、疑問を持ちながら研究を続けてきた。唯一の拠り所は、船底塗料中に防汚剤として添加されているトリブチルスズが、数pptで、イボニシ貝のインポセックスを引き起こすことであった。
 1996年、コルボーン等による著書「Our Stolen Future」は、今まて疑問とされてきた米国五大湖周辺における水鳥の個体数の減少と雄の奇怪な行動、フロリダ州アポプカ湖におけるワニの個体数の減少と群の年齢構成の異常、世界各地における水生高等動物の個 体数の減少等が、実験動物を用いた毒性学的研究成果と共に、これらの異常現象や個体数の減少が内分泌攪乱現象の結果として、見事に統一的に解釈できることを示した。
 人類が、合成した多くの人工化学物質は、その利用の過程で、自然界に放出され、又農薬のように自然界に散布されて、最終的には水界に入る。特に、残留性の高い有機塩素系化合物、ポリ塩化ダイオキシン類、PCB類、DDTとその分解産物、HCH等は、水界に入り残留して、時間の経過と共に、高等の動物群に濃縮される。これらの有機塩素系化合物が、内分泌攪乱物質であることが明らかになったことから、内分泌攪乱物質汚染は、地球環境問題ともなった。
 現在までに報告された野生水生動物への影響例を示すと共に、これらの残留性の高い有機塩素系内分泌攪乱物質による海洋の汚染が、高緯度地域である北部北太平洋海域に如何に及びつつあるかを、有機塩素系内分泌攪乱物質を中心に、それらの物理化学的特性と大気経由の長距離移送による汚染の機構で説明し、高緯度海域の汚染防止の重要性を指摘した。


農業施設学会